三つ数えろ

労務管理 人事評価 組織設計

なぜ上司は「無能」なのか?

 

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一般論として「上司は無能」である

 

職場においてチームに課せられた目標に対し、部下の能力を適性に応じて配分させ、その目標達成に集中することができる環境を、政治的、予算的に整え、またその取り組みの中で部下の自発的な成長を促すことができる有能な上司の下で働けることは、いち労働者にとっては至福と言っていいだろう。しかし、それはかなわない。仕事におけるストレスの大半は無能な上司だ。

 

なぜ上司はかくも無能なのか。我々はその事実にどう対処すればよいのか。それには次のような答えがある。

 

 ピーターの法則とは

ピーターの法則をご存知だろうか。Wikipediaから引用してみよう。

 

ピーターの法則(ピーターのほうそく、英: Peter Principle)とは組織構成員の労働に関する社会学の法則。

能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。すると有能な平(ひら)構成員も無能な中間管理職になる。

時が経つにつれて人間はみな出世していく。無能な平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる。

その組織の仕事は、まだ出世の余地のある、無能レベルに達していない人間によって遂行される。出典

 

 

簡単に言うとこうだ。

 

組織が真に効率的なものであれば、個々人の能力は適正に評価され、その能力に値するポジションの極限まで昇進する。結果的に、その個人にとって昇進の最終地点は、それ以上の昇進が見込めない地位に収束される。

 

例えばこうだ。

 

個人の能力が「7」である人間は、組織においては「7」の地位まで昇進し、またその地位での実績を正当に評価され「8」の地位に昇進する。ところが能力が「7」であるため、それ以上に昇進することはなく「8」の地位に留まることになる。もっともこの人間の能力は「7」であるから、「8」の地位において求められた実績を果たすことは叶わず、結果として「無能」という評価を受けることになる、という理屈だ。

 

筆者はこの法則が大好きだが、この法則はもともと組織における地位の在り方を揶揄するために考えられたものではない(私のガス抜きのためのものではないらしい)。ピーターの法則は、「全ての有効な手段は、順次さらに困難な応用に適用され、やがては失敗する」という、ありふれた現象の特別な事例なのである。

 

日常を振り返ってみよう。

 

上司が自らの過去の成功体験を過信するあまり、事業環境の変化や部下の能力を無視して「いいから言われたとおりにやれ」を推し進めた結果破綻をきたす、というは、いわゆる無能な上司の典型として語られる景色だ。成功体験はそれが成功している間は法則として支持され適用範囲を拡大するが、その限界において、それを進めた上司の約束された未来とともに終了するという喜劇は、二重の意味でこの法則に則ったものであると言えよう。

 

この法則がどこまでの検証を経た妥当性のあるものかは寡聞にして存じ上げないが、心情的に的を射たものであると断言してもよいだろう(というか断言する)。このようなかつての成功体験から脱却できず失敗を重ねる姿はここ20年の日本社会の縮図といっていいが、実は20年どころの話ではなく、先の大戦も日清日露の成功体験を引きずった大日本帝国軍のおけるピーターの法則の実証事例であると言っていい(この他には日本人特有の部分最適化(一生懸命)にも原因を見ることができるが、その話はまた後日)

 

ではこれらの組織における「万民の無能化」を打開するためにどのような方策があるのだろうか。

組織におけるあるべき昇格制度とは 

「柔軟な降格システム」の採用はその答えの一つだろう(上記の例において8が駄目なら7に戻せばいい)。またそもそもキャリアパスとしてこれまで同一線上にあった待遇面での昇進と部長職や課長職といった職制面での昇格を切り離した人事制度作りも肝要になってくるはずだ(具体的には、ある課においてその課長より(プレイヤーとして)有能で給与の高い課員が一般的に存在するような制度設計)。

 

合理的な解決方法はある。あとはそれを受け入れるか否かという心情的課題になるが、これは旧態依然とした制度を維持する企業への経済的要請によって解決なされる他ないのかもしれない。要するに、上司が無能だとストレスを溜めるのではなく、公平で効率的な組織制度上、理論的にそういうものだと受け止めて、ほっとけばいい、という結論になる。

 

もうひとつ、注目すべき研究成果を紹介して今日のブログは終わることとしよう。

 

「昇進させる人物をランダムに選んだ方が、組織はより効率的になることを数学的に証明したことに対して」

Alessandro Pluchino、Andrea Rapisarda、Cesare Garofalo(経営学賞、2010年、イグ・ノーベル賞受賞)