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BYODには労働法上どのような問題があるのか

 

BYODの労務上の問題点

 

一時の行き過ぎたコンプライアンス規制も自省モードに入り、経費削減という経営上の要請からかBYOD(私有端末の業務利用)に関する話題が盛んです。BYODを採用している企業においては従業員が望むならその環境を提供するという「希望者制」をとっているところが多いと思いますが、仮に会社がBYODを従業員に強制した場合、労働法上どのような問題があるのか整理してみました。

 

結論

  1. 労働基準法上、私物の業務利用を強制することは適法。
  2. ただし会社がBYODの強制適用を決めれば労働条件の悪化を招くことになるため、労使間での協議は必要。
  3. 問題となるのは時間外・休日労働の適正な管理。
  4. 情報セキュリティ上の観点では事故の責任所在。
  5. またプライバシーの問題も残る。

 

労働基準法上の問題点

まず労働基準法上、私物の業務利用を強制することについて法律的な問題はありません。自己所有の軽トラックを使った運搬業者なども一般的であることから、私物利用の強制は(あまり褒められない)労働条件のいち形態と考えてよいと思います。

 

しかし、会社が従来の貸与制を改め、従業員にBYODを強制し、かつ通信費等を一切補助しないのであれば、労働条件の低下につながりますので、労使間での協議は必要になります。ただし「経営上の理由」を根拠に会社がが押し切ることは可能です。

 

一方、BYODを進める中で、就業時間の区切りが不明確になるため、時間外労働や休日労働といった労務管理の問題が発生します。こちらは労働基準法に明記された罰則付きの規定なので注意が必要です。

 

労基法41条により管理監督者(たいてい課長職以上)の地位にあるものは労働時間、休憩、休日の規定が適用されませんので、BYODによる時間外・休日労働が問題になるのは、一般社員が対象となります。個人携帯の番号を上司が知り、退勤後や休日に連絡・指示を行い、かつ、電話にでないことを責めるようなことがあれば、「指揮命令下にある(すなわち業務中である)」ということにもなりかねませんし、また「持ち帰り残業」などものちのち大きな問題につながると思います。

 

情報セキュリティ上の問題

BYODの適用に際してもっとも大きな問題は情報セキュリティ上のものですが、労務と直接関係が薄いためここでは取り上げません。ただし情報セキュリティ事故を私物携帯から引き起こした場合、責任の範囲とその取り方については事前に整理し、就業規則に記載してておく必要があります。

 

プライバシーの問題

「上司に個人携帯番号を教えなければいけない」ということになれば、プライバシーの観点から慎重な対応が必要です。たんなる私的な電話番号情報という点に留まらず、公私に渡り常時連絡が可能な手段の提供を強制するという意味で「個人の私的領域につき他人から干渉を受けない権利」の侵害につながる可能性があり、民法上の問題が発生します。

こうした点を含め、のちのトラブルを避けるために通信費の一部を会社が負担するなど不利益緩和ルールを盛り込んだ就業規則で明確なルールを定めておく必要があると思います。