三つ数えろ

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雇用は誰が守るべきか

 

従業員を酷使し使い捨てる企業に対して注目が集まり、ブラック企業という言葉も定着してきました。また、国内企業が安価な労働力の確保のため海外進出を推進することに対し「国内の雇用を守れ!」という批判もありました。不安定な非正規社員の増加についても社会問題視する声があります。

雇用は誰が守るべきでしょうか。この点について自分の考えを整理してみました。

 

 

雇用は企業が守るべきか

「企業は社会の公器である」

パナソニックの創業者松下幸之助の言葉です。企業は単なる利益追求のための集団ではなく、社会や地域と共生すべき存在であり社会貢献することも企業の責務だという考えです。

安心して働ける環境は個人の幸せにとって非常に大きな要素です。松下幸之助は「社員は家族と同じ。絶対に解雇しない」というスローガンを掲げ経営の神様と呼ばれました(パナソニックは2012年夏から始めた本社人員半減を柱とする間接業務リストラを行っています。諸行無常)。

このように雇用は企業が守るべきでしょうか?

私は企業とは顧客要望を叶えていく中で利益を創出し、事業を続けていくことが目的だと考えます。その目的達成のために雇用を維持する必要性があれば維持すべきですか、それ以上に企業が雇用を守る義務を見出すことはできません。

ドラッカーについても日本的な終身雇用制については一定の評価をしていましたが、あくまで手段としての評価であり、企業の目的として雇用を位置付けていたわけではありませんでした。

企業と雇用は鶏と卵の関係ではなく、企業があってはじめて雇用が生まれると考えます。

 

雇用は国が守るべきか

企業が守るべきではないのであれば、国が雇用を守るべきでしょうか。

日本国憲法において25条(生存権)と27条(勤労条件の基準)を重ねてみれば、国が国民の労働環境を守ることが約束されていると解釈できます。その具体的な手段のひとつとして労働基準法が定められています。

日本は正社員の雇用が強く保証されていると言われています。では、労働基準法において雇用はどのように規定されているのでしょうか。解雇についての主なルールを抜き出してみます。

労働基準法第19条(解雇制限)

使用者は、次の期間は労働者を解雇してはなりません。
(1)労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、療養のために休業する期間及びその後30日間
(2)産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業する期間(産前6週間(多胎妊娠は14週間)、産後8週間)及びその後30日間

 

労働基準法第20条(解雇の予告)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合は、次の手続のいずれかをとらなければなりません。
(1)少なくとも30日前に解雇予告をする。
(2)30日前に解雇予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金を支払う。
解雇予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができます。

 

主だったところでは上記の2条です。19条では仕事で怪我をしたり病気になった従業員は治るまで面倒をみなさい。また妊産婦も一定期間は解雇してはいけませんという規定です。20条については、解雇するなら30日前に予告しなさい(または30日分の給与を支給しなさい)という規定です。

意外と、というか、非常にあっさりしています。一方、労働契約法という法律には以下のような規定があります。

 

労働契約法第16条 (解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とします。

 

シンプルな条文ですが、この「解雇権濫用の禁止」が重要です。解雇に関する過去の最高裁判所の判例の積み重ねがあり、客観的・合理的な理由として「整理解雇の4要件」が確立しています。この4要件は非常にハードルが高く、このため日本においては正社員の雇用は強く保護されていると言われてきました。

一方でこの雇用保護について、守られているのは大企業の正社員だけで、そのしわ寄せが中小企業の労働者や派遣労働者の雇用の安定を脅かせているという主張もあります。とはいえ、雇用の安定は国によって守られていることは間違いありません。

雇用は国が守るもの、という結論でいいのでしょうか?

雇用は誰が守るべきか

私は雇用というものは労働者自身もまた守るべく活動するものだと考えます。

労働者が自身の雇用を守る方法にはどのようなものがあるでしょうか?「会社に必要とされるオンリーワンのスキルを身につける」といった意識の高い回答を求めているわけではありません。自分の身は自分で守る。そのために労働者自身が雇用を守る行動を行うべきだということです。

 

実は労働者にはその身を守る強い武器があります。憲法28条の下、その活動が保証された「労働組合」です。

 

ところがこの労働組合の評判はよくありません。思想的に偏ったイメージはありますし、会社のいいなり、御用労組だという声も聞きます。そのため組織率も年々低下しています(2012年6月30日現在の推定組織率は17.9%。100人未満の小企業においては1%程度)。

 

労働組合とは本来どのようなもので、どのような役割を期待されているものなのでしょうか。次回、このあたりを整理してみたいと思います。