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王岐山 日本人から見た中国の大政治家

 

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中国の現政治体制における最高指導者はご存知習近平という国家主席になるが、彼個人が独裁的に国家を運営しているわけではない。中国は一人の人間が統治するには広すぎる。よく知られているのは軍や公安、共青団といった各権力を基盤する7人の中央政治局常務委員という存在であり(一部では「チャイナ7」と呼ばれたりしている)、このメンバーたちがある意味合議制をもって国家運営が図られている。


このチャイナ7の中に王岐山という男がいる。写真の、少し髪型の不自然な、男だ。序列は第6位であるが、習近平からの信任の高さ、与えられた強権において実質的にはNo2の地位にいると目されている。

 

王岐山のこれまでの実績を並べてみれば彼の凄みがわかる。

 

 

1997年 アジア金融危機では銀行改革と不良債権処理で事態を収拾

2003年 新型肺炎SARSの蔓延に対し事態を収集

2008年 北京オリンピックを北京市長として開催

2008年 リーマンショックにおいては4兆元の財政出動を指示し混乱を収拾

 

そして今回、王は党中央規律検査委員会のトップたる書記に就任。苛烈な不正取締りを行い、かつて公安トップを務め最高意思決定機関たる常務委員でもあった周永康、軍の上級将校だった徐才厚、国有石油大手の最高幹部だった蒋潔敏を拘束した。

 

なんともまぁ、驚くべき有能な官吏である。

 

特に今回不正取り締まりのために新設された党中央規律検査委員会は、これまで聖域とされていた最高権力経験者に対しても切り込める権力を与えられており、そのトップとしてのとしての王岐山の活動はすさまじいの一言に尽きる。警察、軍という国家権力の中枢に対しての容赦のない追求。中国政治体制の最上流における権力闘争であり、本丸として江沢民率いる上海勢力がターゲットではないかという話もある(このあたりの活動は蒼天航路における曹操をかぶってみてしまう、ならばよし)。

 

本人の性格は苛烈で短気とされており、メンツを重んじる共産党有力者を会議の席で面罵することも珍しくないらしい(官僚特有の責任の所在の曖昧な発言に対して特に気分を害するようだ)。茫洋として感情の読めない習近平とは真逆に見えるが、習近平にしても王岐山の常務委員会への昇格に際しては、自らの進退をかけて押し通したとも伝えられており、意外と熱いところも見せている。実はこの二人は長い交流があるらしく、文化大革命ではともに地方に追放され、苦難を舐めたという共通体験を持つらしい。絵になる。

 

こうした最高権力者とのつながりはあるにせよ、王岐山はまさしく命がけの切込みを行っている。その能力と覚悟は驚くべきものがある(実際に王の命を狙ったテロ事件も発生されている)。また、一歩間違えば自らを傷つける可能性もあるこの剃刀を武器にして権力を掌握する皇帝習近平もかなりの力量だと見ることができるだろう。

 

日本のように優秀な官僚機構をもち、従順でかつ基礎能力の高い国民を統治するに比べ、中国のそれは一党体制とはいえ、難易度は格段高い。また独裁色の強い分、ひとつの指示命令が大きく国家の進むべき道を誤る可能性と背中合わせだ。

 

王岐山の横顔を見るとき、こうした修羅場を踏み越えてきた政治家としての凄みを感じざるを得ない。