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サラリーマンが知っておきべき「裁量労働制」をわかりやすく解説

 

裁量労働制について

 

以前書いた

count3to1interrupt.hatenablog.com

の記事では、現行の労働法において、会社(使用者-経営層)がその従業員に「合法的にただ働きさせる」余地がないことを書きました。いかなる理由であれ、ただ働きさせることは即違法です。

また、そこにひとつ抜け道があるとすれば「みなし労働時間制(裁量労働制)」という制度があることも書きました。

近年、このみなし労働時間制に改正があり、来年4月より施行されることになりました。ブラック企業に対する社会的な批判と慢性的な人手不足が加わったことで、この合法ブラックともいえる制度に対する経営層の注目が増しています。

そこで今回はこの制度について改めてまとめてみました。

みなし労働時間制とは

労働基準法において、みなし労働時間制は以下の3種類を指します。

  1. 事業場外労働(第38条-2)
  2. 専門業務型裁量労働制(第38条-3)
  3. 企画業務型裁量労働制(第38条-4)

 

一般に私たちサラリーマンにおいて問題になるのは、2と3の裁量労働制という制度です。これら二つについては「労働時間の長さではなく、労働の質や成果によって評価を行うことを認めるべき」という主張を根拠とした制度になっております。

従来の労働基準法においては、その骨幹となる「労働」とは「労働時間」を基軸としています。しかし、この制度については時間ではなく質、成果という点に根拠を求めている点が従来の考え方と大きく異なります。

 

裁量労働制について

労働基準法第三十八条によるとこの制度の適用条件として、

(a)業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用できる。
(b)対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。
(c)対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
(d)対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。

と定めています。

専門業務型については各種コンサルタント職や研究開発者や編集者、デザイナー、エンジニアといった専門業務と定義された19種が対象となっています。

一方、企画業務型について、これまでは企業の経営計画をつくる職種(経営企画職)らに限定されていました。しかし、今回の法改正により来年の4月からは「課題解決型の営業(ソリューション営業!)」や「工場の品質管理」業務も対象になることになりました。

これは我々にとって危うい改正です。一般的なサラリーマンにおいて、大なり小なり何かを企画し、お客様に提案するということはごく一般的に行われています(逆にそうしない業務というのはごく稀)。考え方によってはあらゆるサラリーマンがこの企画業務型裁量労働制の対象になってしまうことが考えられます。

企画業務型裁量労働制の適用要件について

さて、こうした合法ブラック制度に対して、我々サラリーマンは無力なのでしょうか?その適用要件をもう少し詳しく見てみましょう。

まず制度自体の導入に際しては、労使双方の合意が必要になります。企画業務型については労使委員会における5分の4以上の多数決による決議が必要です。

労使委員会という耳慣れない会議体が出てきましたが、この労使委員会は(当面は)企画業務型裁量労働制の導入のために組織化が必要となる会議体です。参加者については、その半数については労働組合からの参加が必要ですし、委員について会社からの指名は無効になります。また委員である任期も定められています。その委員会の5分の4以上が賛成しない限りその制度の導入はできません。

また、この制度導入の決定については、所轄の労働基準監督署長への届け出が必要になります。

さらに企画業務型については、最終的には本人の同意が必要となります。あなたの仕事は企画業務型であるという決定は、所属する部署やその部署の仕事内容で一括に定まるものではなく、個々人に対して個別具体的に行われます。つまり、「あなたの仕事は企画業務ですよね、そしてあなたはその能力がありますね、よってあなたは企画業務型の裁量労働制の対象になりますがよろしいでしょうか」という確認と合意が必要になります。

 

「働く」ということの再定義が必要

また導入要件の(b)を思い出してください。裁量労働制下にいる従業員にはその業務のやり方や時間配分について会社が具体的な指示を行うことができません。やることをやっていればいつ会社に来ても、または来なくても、会社は文句が言えないということです。

繰り返しになりますが、これらの企画型業務については、働いた時間ではなくその質、成果について「働いた」と認めるものです。つまり、どの程度の質や成果をもって働いたとするか、明確な定義が必要になります。「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」とするのは会社側ですので、この点について明確な定義を行うのは会社の義務になります。

こうして見ると、専門業務型裁量労働制はなかなかその導入及び運用がむつかしい制度です。何をもってして働いたとみなすのかという点について、従来の労働時間でのみ評価を下してきた会社側に明確な制度設計ができるとは思えませんし、導入するのであれば働くことについての再定義が必要となると思います。

 

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