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「勤務時間中の喫煙禁止」は労働基準法上どう解釈されるのか

 

業務時間中の喫煙禁止

 

喫煙室での気さくな役員との会話の中で、年齢よりもお若くみえますね!というおべんちゃらをいうところを「学生気分が抜けてなさらないからですね」と言い間違ったことで、その後一切お声がけいただけなくなった事件来、こと喫煙についてはいいイメージのない筆者だが、近年、勤務時間中の喫煙禁止を打ち出す企業が増えてきている。こうした会社が定める禁止ルールの法的根拠について整理してみた。

 

禁止ルールを作るだけなら簡単

仕事中の喫煙禁止といった禁止ルールについて、会社は就業時間の中であれば(法律に抵触しない範囲で)比較的気安くルールを定めることができる。

 

たとえば機密性の高い情報を扱う職場においては、私用携帯の持ち込みは普通に禁止されているし、仕事中の飲酒を禁止したとして違和感を感じる読者は少ないだろう。法律に抵触しない範囲であればというのは、たとえば特定の宗教以外を禁止し、会社の定める宗教儀式を社員に強制するといったものでなければという意味だ(憲法違反ですそれ)。

 

喫煙禁止のほか、社内恋愛の禁止やストライプシャツ禁止(弊社、理由は不明)といった禁止ルールであっても作るだけならご自由にどうぞ、である。

 

禁止ルールを破った場合の罰則規定

もちろん罰則のない禁止ルールは効力をもたない。そして問題となるのは、こうした禁止ルールを破った従業員に会社が懲罰を与える場合に発生する。

 

会社が定めたルールに違反した従業員に懲罰を与える場合、労働基準法ではその根拠となる規定を就業規則に記載しておく必要があると規定されている。(就業規則の相対的記載事項である「表彰・制裁について定める場合には、これに関する事項」)。就業規則に懲罰の対象として記載がない事由で懲戒することは懲戒権の濫用とみなされ無効となる。

 

では、就業規則に書けばいいのか、というとそれだけではなく、懲戒規定の範囲拡大については、従業員への不利益な変更とみなされるため、労働契約法9条において、会社は、従業員と合意しない場合には、就業規則の変更により、不利益に労働条件を変更することはできないとしている。

 

もっともこの点については例外事項があり、定める懲罰規定について、客観性、合理性および相当性があれば従業員の同意なく定めることは可能となっている。いずれにしても不利益変更については原則、従業員の同意が必要であり、例外としても労使間の相応の協議が必要となる。また、最終的には定めた就業規則を労働基準監督署に届け出る必要がある。

 

休憩時間中の喫煙禁止は適法か?

もうひとつの問題が休憩時間の扱いだ。

 

労働基準法34条において、従業員は勤務時間に休憩時間を取ることが保証されているが、この休憩時間とは「労役から離れることを保証された時間」とされ、会社の管理監督の及ばない自由利用が原則となる。この点からいえば、休憩時間中の喫煙禁止を強いることに法的な正当性はない。

 

この話題になると「休憩時間中であっても職場の規律保持上必要な制限は可能」といった過去の判例を持ち出す意見もあるが、この判例は駐留米軍基地内における左翼団体による休憩時間中の示威運動、会議、集会の禁止を合法とした戦後まもなくのものであって、要点としては「自由利用といっても、世界同時革命は困るよ」というものだ。決められた喫煙所でほそぼそとタバコを吸うことを職場の規律騒乱とするのは相当無理があるだろう。

 

もちろん受動喫煙防止という観点からの禁煙推進処置は正当性の高いものだ。ここで私が言いたいのは「会社は好きなように罰則規定のあるローカルルールを従業員に課していいわけではない」ということであること、ご了承いただきたい。

 

なお、本事案について、高名な国際弁護士に話したところ『幸福追求権の侵害ですな。明らかな憲法違反です、一緒に戦いましょう、最高裁まで』と嬉々として提案された。ヤダよ。