前回の「雇用は誰が守るべきか」では、労働者が雇用その他の権利を守るための武器として「労働組合」の存在をあげました。
労働組合について、その全盛期には全労働者中の60%以上の組織率を誇っていたものの、昭和50年以降、その組織率は低下傾向にあり、2007年(平成19年)6月30日現在の推定組織率は20%を切っています。従業員1,000人以上の大企業において推定組織率は50%近くあるものの、100人未満の中小企業においては1%程度という散々な結果になっています[参考:労働組合 - Wikipedia]。
このようにかつての隆盛の面影もない労働組合ですが、労働組合のある会社で働いている人についても組合費として月々給与から天引きされる数千円について、複雑な思いをしている人も多いのではないでしょうか。
そこで「労組に意味はない」「脱退(抜ける)ことはできるの?」という点について整理してみました。
憲法と労働組合
まずは前段です。中学校の社会か公民の授業を思い出してください。
日本国憲法は第27条で「①すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」「②賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」としています。意訳すれば「働かせろ、働くから」「働く最低限度の基準は法律で決めてくれ」という内容です。
次に、第28条で「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と規定されています。これが労働基本権で、特にここで明記された団結権、団体交渉権、団体行動権は、労働三権と呼ばれています。
こちらも意訳すれば「強欲な社長にぎゃふんと言わせるために、俺ら労働者が示し合わせて、時間や賃金等の条件についてゴネてゴネて、それでもあかん場合はストを起こしたる」ということが憲法上認められているということです。心強いです。
結局、労働者にとって最終的な武器はこの団体行動権(争議権=ストライキ権)です。ところがストなんて国内ではほとんど見聞きすることはありません。労働組合もメーデーに集まって騒いでいる暇があれば防災訓練のノリで年に一回くらいはストライキの練習すればいいと思います。
労働協約と労働組合
さて、もう少し実務的な話になります。
「労働協約」とは経営者と労働組合が協議し合意した契約のことです。
例えば労働基準法では休日は週に1日と定められています(法定休日)。しかしながら多くの会社では土曜日も休日として認められていますし、場合によっては土曜出勤は休日出勤として割増賃金が付与されている会社も多いでしょう。こうした労働基準法の定められた基準以上の条件は過去の交渉で労働協約として勝ち取ってきた権利です。
労働協約は労働組合があってはじめて締結できるものです。またこうした有利な契約条件は一般的には労働組合員にしか適用されないものになります。
労使協定と労働組合
「労使協定」は労働協約とは逆に、労働基準法では違法である行為を、労使が協議し、一定の範囲で認めるための協定です。もっとも身近なものでは時間外労働を認める労使協定(36協定)がそれにあたります。
労使協定は、この他にも以下のような労務施策の採用時に必要となり、場合によっては労働基準監督署への提出が義務付けられています。
- 変形労働時間制の採用
- フレックスタイム制の採用
- 時間外労働の採用
- 休日労働の採用
- みなし労働時間制や裁量労働制の採用
- 年次有給休暇の計画的付与の採用
- 休憩の一斉付与の例外実施
- 賃金から法定控除以外にものを控除 他
こうした施策は、本来は違法であっても、事業の円滑な運営上やむを得ないものです。そこで労使で話し合い、適切な管理のもと実施する、そのために労使協定があります。
ただし、労使協定については労働組合がなければ締結できないわけではなく、労働組合もしくは「労働者の過半数を代表する者」が存在すれば締結できます。
なお労使協定は労働組合員だけでなくその事業所の従業員すべてに適用が及びます。つまり労働組合に入っていない等の理由で、36協定を認めない(残業しない)というようなことは認められません。
労働組合を辞めることはできるのか?
このように陰ながら一定の機能的役割を果たしている労働組合ですが、果たしてそれが毎月の労働組合費に見合う働きをしているのかという点に疑問をもつ人もいるでしょう。では労働組合は任意に脱退することができるのでしょうか?
実はこれがなかなか難しいというのが実態のようです。
ユニオンショップ制について
「ユニオンショップ制」というものがあります。耳慣れない言葉ですが、これは労働組合員であることが、その会社の雇用条件であるという労使協定です(「ユ・シ協定」といいます)。
ユ・シ協定が締結されている職場では、従業員(管理監督者除く)は必ず労働組合に加入する必要があります。給与から労働組合費が差し引かれている場合、その多くはこのような協定を締結しています。
労働組合への加入が雇用条件ということは、逆に言えば労働組合から脱退することが、会社から解雇されることにつながる(可能性がある)ということになります。
なぜそんな馬鹿な話がまかり通っているかというと、それなりの理由があります。
従業員の労働組合加入を完全な任意にしてしまうと、経営側からの組合員脱退工作や活動に対する干渉の余地が発生します。組合員であることを理由に不利な取り扱いを行うことは違法ですが、ありとあらゆる手段で組合から脱退することが給与面等で有利となる施策を経営者が打ち出すことになるでしょう。そうなれば労働組合は今以上に形骸化され、気がついたときには経営者の思うがままになります。
こうした労働組合としての団結権を守るための必要性から成立したユニオンショップ制ですが、逆に労働組合の組織としてのある方を歪めている点も否めません。
こうしたジレンマはあるものの、上記のような背景のもと、簡単にやめることはできないことを覚えておいてください。
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