就活のノウハウとして「会社目線」「人事部目線」といった採用者側からの本音を紹介した記事はよく目にします。とはいえ、その多くは実に優等生的な回答であり「ほんまかいな」と思うこともしばしば。ここでは会社組織の中の人事部という役割を捉え上での就活のポイントを整理しました。
人事部は目利きの専門集団ではない
まず「人事部」はどのような集団でしょう。
社会人経験のない学生からは「人材の目利き」「嘘を見破る専門家」というようなイメージがあるかもしれません。就活記事を読むと、待機室でのしぐさや応えづらい質問への反応といった表面的なものから、論理的思考力、失敗体験を通じた人間性の本質といった実にさまざまな点を細かく見ているようです。
一方、社会人経験のある人間からはどう写るでしょう。
人事は総務や経理といった企業の本流ではない間接部門のひとつです。経理などは一定の専門知識も必要になってきますが、人事はそうしたものはありません。経験から言ってしまえば人事は企業の二軍の人間が所属する部門です。二軍は言い過ぎとしても第一線の人材を人事部に集める企業は稀でしょう。「あいつが採用担当ならまず自分自身を採用しちゃ駄目だ」というような皮肉を耳にしたことも少なくありません(主に私が言っているわけですが)。
何が言いたいか。
人事部は特別な存在ではなく、ただのサラリーマンであり事務員に過ぎないということです。彼らの多くは人間性や潜在能力といった高い次元での真剣勝負を行っているわけではなく、毎年の事務的な作業として採用活動を行っていることをまず理解してください。
人事部のミッションから見る就職活動のポイント
では採用における人事部のミッションはなんでしょうか?
人事部も会社組織の一員なので役割が明確にあります。採用に関しては以下のようなものです。
①決まった期間で
②決まった人数の
③優秀な人材を獲得する
細かく見ていきます。
①決まった期間で
12月から翌年の5月までの約半年間がいわゆる新卒採用期間です。人事部はこの期間に採用活動を完了させなければなりません。秋採用といった取組みもありますが、基本的にはロスタイムであり、秋採用をしなければならない会社は、それが戦略的なものでないかぎり、人事部の失点です。
②決まった人数の
優秀な人材ならいくらでもほしいという会社もありますが、逆に優秀な人材がいなければひとりも採用しなくてもよいというわけにはいきません。人事部はその中で比較的優秀な人材を20人、30人といったボリュームで採用するノルマがあります。うちの会社でも人事部に入ると「採用実績残り2名」といった張り紙があったりしました。そういう意味では数字に追われた営業と変りません。
③優秀な人材を獲得する
ここがポイントです。
「優秀な人材」とはなんでしょう。採用した新人が「仕事ができる」という意味で優秀であるという判断は、面接中はおろか短期間では行えません。成長という側面を考慮すると少なくとも2年や3年の時間が必要になるでしょう。
そうした事実からすれば人事部が自らの責任と功績としてみる「人材の優秀さ」は長期的、本質的なものではなく、実に短期的なものにならざるをえません。
では人事部は人事部目線としてどのような人間を優秀と判断しているでしょうか。大きくは以下の3点でしょうか。個別に見ていきます。
A:客観的に見て優秀
一般に採用の最終面接は社長もしくは役員です。この場合、人事部はなぜその人間を最終面接までに残したのかという合理的な説明が必要です。最終面接者はそれまでの面接に参加していませんので書類上の客観的な説明が必要になります。「学歴」「所有資格」はそうした指標の代表です。人事部はこれらの重要視しないように振舞いますがこれほどわかりやすい指標はありません。
B:対人トラブルを起こなさい
いくら客観的に優秀な新人でも、所属された部署で「上司に反発する」「同僚と仲良くできない」という人格上の問題のはすぐに露見してしまいます。こうしたわかりやすい欠点のある人材は、人事部にとってリスクですのでいくら優秀でも除外します。これを人事部は「コミュニケーション能力」「素直さ」という言葉に置き換えますが、すくなくとも人事部の責任と捉えられない1年くらいは、人当たりよく、従順でいることができる人材かという点が重要になってきます。
C:辞めない
一番わかりやすいのはこれです。新卒採用には一人当たり平均100万円ほどのコストがかかりますし、その後の教育も考えると、入社した新卒が半年でやめてしまっては会社の大きな損失になります。「熱意」「当社の文化に馴染むか」「第一志望かどうか」といった観点はここに属します。当然ですが「辞めない人」を人事は好みます。
また人事部の採用選別は基本的に消去法です。「よい人材」は評価する人それぞれですが「悪い人材」は誰が見ても「悪い人材」であることが多いでしょう。つまり人事部はその組織性質として「よい人材」を採用するよりも「悪い人材」を採用しないことに価値観を持ちます。
このように所属部門においてすぐに初期不良として発覚してしまう観点は人事がもっとも注意深く検品するポイントです。
「当社は第一志望ですか?」という質問にはどのように答えればよいか
上記の観点からこの設問への回答を考えてみましょう。この質問を行う人事部の意図は、内定後に辞退される可能性の把握です。とはいえ面接時の発言には法的な拘束力はありませんし、その点は人事もよく理解しています。なので0か1かではなく可能性を図りたいのです。
こうした質問をすることは採用の可否には本来何の関係もない採用側の甘えになります。それを踏まえこう答えましょう。
「内定をいただければ、御社で頑張る覚悟はできています。なぜなら・・・<以下、理由>」
この回答のポイントは以下の通りです。
まず内定をもらえることが第一志望であることの必要条件としています。無条件に「第一志望です」ではなく「内定くれたら第一に格上げしてもいいけど」ということです。人事部は決まった期間に採用を決めないとまずいので早期に内定者を確保したいと考えます。こうした弱みに付け込み人事部から内定を引き出す取引をしましょう。基本的には無礼な質問なのでこれくらいは駆け引きは当然です。
次のポイントはこの回答に「なぜなら・・・」と理由を付け加えることです。人事は可能性を図っているので「YES」「NO」の回答を求めていませんし、逆にいうと「YES」の回答だけでは十分ではありません。内定辞退する可能性が低いなと錯覚させる回答が正解になります。
もちろんここではっきり「第一希望ではない」と伝えることも可能ですが、その場合、悲しいサラリーマンの一人である人事部はリスクよりも目先の実績を取りますので、内定の可能性は大きく後退してしまうことになります。
入社したい企業ランキングの常連のような企業では人材は選り取りみどりということもあり、また違った観点で選考が行われていると思いますが、大半の企業(従業員が100人以上の中堅・大企業)では実にこんなものだと思います。
人事も人間です。うまく攻略してください。