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会社が求める「コミュニケーション能力」とは何か

 

会社が求めるコミュニケーション

 

思い返せば弊社が重要顧客と位置づける世界的な家具メーカーの日本支社担当者(日本人)からの業務メールを「件名が英語だから」という理由でスパムと勘違いし、一通一通丁寧に削除していたことが原因で5年間所属した花形営業部署から左遷され、人材の墓場と呼ばれる今の部署に異動してしてからはや3ヶ月(私が最後に目にしたメールは「要返信!」という日本語の件名だった。笑える)。

暇に任せて自分宛にメールを送信する仕事(メールシステムの死活監視)にも飽きたため、今日はビジネス系ブログでは定番ともいえる「コミュニケーション能力」について大上段から語ってみたい。

 

そもそもコミュニケーションとは何か?

名著「脳のなかの天使」(V・S・ラマチャンドラン著)によれば、文明は人類の脳にあるミラーニューロン(他人の動作を見ることで反応するニューロン)の働きにより、他者を自己のうちに投影する過程で爆発的に発達した。文明とはすなわち人間の精神の発露に他ならない。つまり私たちの精神も他者のそれをシミュレーションするうちに複雑な進化を果たすこととなった(実にラカン的である)。この考察は非常にユニークであり、まぁ、・・・だいたい合ってる。

 

私の心(=意識)があなたの心をシミュレーションすることで進化したのであれば、コミュニケーション(意思疎通)とは、この通信をより完全なものとするため進化発展した手段、プロトコルであると言える。つまりコミュニケーション能力とは本質的に「うまく伝える」能力ではなく「うまく嗅ぎ取る」能力である

 

「人は見た目が9割」というベストセラー本が端的に述べているように、人間はそのコミュニケーションの9割を非言語的情報によって取得する。この全方位性こそがコミュニケーションが「うまく嗅ぎ取る能力」であることの証左であろう。

ではこの能力の究極の目的は何であろうか。文明を築くことだろうか。否。それは生物として「生き残ること」に他ならない。この点を覚えておいて頂きたい。

 

会社が求めるコミュニケーション能力とは何か。

コミュニケーション能力は「受け取る能力」だ。しかし、会社において、例えば上司との会話において求められるのは「受け手のコミュニケーション能力に負荷をかけない伝え方」になる。もちろん「相手の考えを嗅ぎ取りそれを元にして自らの生存戦略を画策する」という本質は変わらないため、これを会社に置き換えれば「協議する相手の意見や立場、感情を汲んだ上で業務を円滑に行い目的を果たす」ということになる。

コミュニケーション能力については度々「傾聴」といった言葉で解説されることも多いが、これはただ相手の話を丁寧に聴くというだけではなく、その表情、立場、状況、性格などから相手の意図を正確かつ総合的に収集するというインテリジェンス分野についての技術と言える。

以下では上記を踏まえたうえで、会社が求めるコミュニケーション能力を3つの段階にわけて述べてみたい。

 

第一段階(初級編)

この段階におけるコミュニケーション能力とは何かを考えた場合、まず思い浮かぶのが「相手をイラつかせない」ということだ。コミュニケーション能力の低い人間とのやり取りは非常に「イラつく」。もう少し正確に言うと、聞き手に高いコミュニケーション能力の発揮を求める人間との会話は疲れる。世の中で語られるコミュニケーション能力とはとどのつまりこの相手をイラつかせない技術である。その技法についてはすでに多く語られているため、ここで詳細に述べることはしないが、以下のようなイラつかせる事例をあげておけば十分であろう。

 

  • 話しかけるタイミングが悪い
  • 聞き取れない(声が小さい、早口)
  • こちらの質問の意図に応じて答えない(ex.Yes/Noで聞いた質問に「微妙」と回答する)
  • 話が長い(情報過多)
  • 話が極端に短い(情報不足)
  • 自分の言いたいことだけを話す(年配者にも多い)
  • 「いちおう」「とりあえず」「個人的な意見ですが」というノイズが多い(個人的な意見以外の何があるのか)

 

この段階で陥りやすい過ちについても述べておこう。「正直に正確に伝えればよいという勘違い」だ。もちろん、受け手がそれを望んでいる場合はよい。しかし、仕事の上では「ざっくりとした結論」「落とし所」や「だいたいの感触」を求める上司も多いはずだ。「正直に正確に伝えれる」ことは伝える側としては気持ちのいいことだが、相手が何を求めているのかという観点が抜けている(だって誰にもできることでしょうそれ)。これでは十分とはいえない。

要はその受け取り方は人それぞれであることを理解したうえで、相手の立場になって受け取りやすいボールを投げること。

第一段階のポイント「相手をイラつかせない」

 

第二段階(中級編)

さて、上記はごく基本的なコミュニケーション能力になる。新入社員などに求めるものとしてはこの程度で十分だと思われるが、これだけでは会社が求めるものとしては物足りない。コミュニケーションには次に「話し合うことを必要としない」という段階があることを覚えておこう。

 

なぜか。コミュニケーションとは相手が期待するインプットに対し、こちらのアウトプットが不十分であるとき、そのギャップを埋めるために発生する。受け手に必要十分な情報が届いていれば、そこにコミュニケーションは発生しない。つまり「上司から進捗を問われた」時点でコミュニケーションが不全を起こしている。相手を観察し、察知し、察して、相手が問いかけを行う前に必要な情報を過不足なく与えておくこと。これが会社が求める次なる段階のコミュニケーション能力となる(ようするに手がかからないヤツになるということだ)。

 

この段階で陥る過ちは「相手に十分な情報がインプットされていると過信する」ことだ。コミュニケーション能力が低い人間ほど、相手にこちらの意図が正確に伝わっているはずだと強弁する。しかし、これは多くの場合、「話した」「メールした」「議事録にもある」といった自分の義務は果たしたということでしかない。相手が正しく受け取って初めてコミュニケーションは意味を成す。この点には留意されたい。

 

凄腕の営業マンは対面の場では寡黙な場合が多い。それは顧客が必要としている必要十分な情報を、すでにその手元に与えてあるからなのだ。 

第二段階のポイント「話さなくてもわかるヤツになる」 

 

第三段階(上級編)

第二段階までのコミュニケーション能力を身に付けることができれば、上司や同僚に信頼され、話し上手でなくてもコミュニケーション能力が高い人という評価を受けるだろう。しかしコミュニケーション能力の目標は「生き残ること」であったことを思い出してほしい。最終的にはコミュニケーションを通じてこちらが生き残るための能力の発揮が求められることになる。

 

具体的にはどういうことだろう。

職場においては立場の異なる相手を「説得し」「納得させ」「承諾させた」上で「信頼を得て次の仕事も有利に進める」ということになる。また「怒りをおさめさせる」「許す」「その気にさせる」「不都合に目をつぶらせる」といったこともその能力のなせる技だろう。高度に発達したコミュニケーション能力は詐術と見分けがつかない。しかし求められている能力はまさしくこの詐術なのである。

 

相手を騙すなんてとんでもない!と思うだろうか。

しかし結局のところ、コミュニケーション能力で解決できる課題など、正直どっちでもいいことばかりではないだろうか。他の客観的事実で決まるのであればそこに話し合う余地はない。それ以外のどっちでもいいことに対し、過剰に情報を集め、大げさな資料を作成し、多くの従業員を時間的に拘束する場を設け、感情的な対立を引き起こしてまで、時間をかけて喧々諤々とやりあっている。これがオフィスワーカーの職場における姿だ。さらっと騙せ。これに尽きる。

 

 第三段階のポイント「人を動かす」

 

どうだろうか。漠然と語られる「コミュニケーション能力」について少しはその輪郭が見えてきただろうか。ちなみに筆者は上記にあげた書籍を一冊も読んでいない。気持ち良く騙されてもらえただろうか?  

 

 

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